<プロフィール>2017年12月、主にカラスによる被害対策に取り組む「株式会社CrowLab(クロウラボ)」を起業した群馬県出身の30代男性。

有害鳥獣として捕獲され、ただ処分されるだけのカラスを有効活用するためにカラス肉のレシピ本も出版しており、メディアからも注目を集める。

カラスの生態、特に音声コミュニケーションを研究する宇都宮大学の特任助教でもある(インタビュー時の2018年3月は総合研究大学院大学・特任助教)。

 

――カラスの研究を始められたきっかけは何でしょうか?

私の場合は特に、元々カラスに興味があったり好きだったりしたわけではないんですよ(笑)。

研究者になりたくて大学3年の時に入ったゼミで教授に「研究者になりたいから院に行く」と伝えたのですが、そのゼミこそが動物の生理や生態を研究するものでした。

通常、大学のゼミとは学生が1年かけてようやく研究要員として使えるようになった頃に卒業してしまうものなのですが、院まで行くと言う私が入ってきた。

ちょうどカラスの研究で研究費用を獲得した教授としては渡りに船だったのでしょう、研究テーマの一つであるカラスの鳴き声の研究を私に託したのです、鳴き声を収集するためのマイクと解析装置とともに。わりと「無茶ブリ」だったとも言えますね(笑)。

あの頃は毎日カラスを追いかけていましたよ。苦労しましたね。日の出とともに動き出し、鳴き声を採集、日が沈むと音声解析。帰宅してもね、カラスの鳴き声が聞こえてきて。聞こえないはずなのに(笑)。

苦労はしましたがやるしかなかったので「やらなきゃ」という使命感で乗り越えました。研究はどの分野でも根性の要ることですしね。

――研究って根気との勝負なんですね……! もともと研究者になりたいと思われていたのでしょうか?

というより私の場合はずっと先生になりたいと思ってきました。

中学では中学校の先生に、高校では高校の先生に、大学では大学の先生に……といった具合だったのですが大学の先生ってイコール研究者なんですよね(笑)。それで研究者を志しました。

先生になりたかったのには中学高校大学と、ずっと良い先生方に恵まれていたことも多分に影響していますが、それだけではなく、社会貢献がしたかった。その分責任はありますが、先生という職業は、一人の先生に対し数十人、数百人もの生徒・学生たちがいて、及ぼす影響が大きいでしょう?

 

そして、大学の先生になったのはもう1つ理由があります。

それは、大学の仕組み自体に疑問を抱き、大学自体を変えたいと思ったこと。

実は現在(2018年3月)所属している大学のメインの業務は、研究ではありません。大学の執行部が決める運営方針を実際にアクションとして実現させる運営側で、主に広報に関わる仕事をしています。カラスの研究はその合間に。

 

ただ、大学を変えるなら執行部にならないと、とずっと思っていたのですが、最近考えが変わりました。それは、「大学を変えたいなら大学の外に出た方がいいのでは?」と。

大学の中にいればどうしても、大学という枠の中でしか動けません。当然いろんなしがらみもあれば縛りもある。 執行部の近くで仕事をする中で、大学を変えるため新しいことをしようとしても、その枠の中では難しいことが良く分かりました。

また、現在、どこの大学も資金集めが課題となっています。それは、国から大学への交付金が毎年のように削減され、経営が非常に厳しい状況にあるからです。

大学がお金を生み出す手段として大学の知的財産を収益に変える「大学発ベンチャー」が求められていますが、そもそも様々な業務に翻弄される大学教員が片手間に行うには重すぎる仕事です。大学の中を知った人間が、大学の外に出てベンチャーに専念することが必要だと思いました。

私は昨年12月、15年間に渡りカラスの生理・生態を研究してきたことを活かし、カラス害への対策を講じる会社「株式会社CrowLab(クロウラボ)」を立ち上げました。 安定した大学教員のポストを捨て起業することは、文字通りベンチャーではありますが……。  大学の知財を元に得た収益を大学に還元するモデルケースになりたいと考えています。

 

――大学の仕組みを変えたいと思われるほどの疑問、とはどういったものでしょうか?

それは雑務が多すぎて研究者が研究に専念できない、この現状に対してです。

最近の大学の先生というものは研究と教育以外に、大学の運営、保護者面談、近隣の高校に出張講義、地域貢献、大学の自己評価に関わるものを始めとする膨大な書類仕事など、かなり多岐に渡っています。

おそらく研究者は、このような書類仕事のような雑務が苦手な方が多いと思います。このような現状は効率も悪く、研究に費やせる時間がほとんどありません。

もっとしかるべき役割分担、適材適所で能力を発揮するべきだと思っていますし、私も研究者の一人ではありますが私より優れた研究者はたくさんいる。だから私が間に入って大学の仕組みを変えた方がより貢献できるのでは、と。

みんな、自分の得意分野に合ったことで社会に貢献するべきだと思うんです。

 

ーーところで、カラス料理のレシピ本を出されたとのことですが、なぜカラスを食べようと思われたのでしょうか……?

私は料理が好きです。食べることも好きです。だからです(笑)。

 

私が所属していた研究室は、動物解剖学が主体の研究室だったのですが、自治体で有害鳥獣として駆除されたカラスを頂きまして、解剖室で開いてみたんですね。

そしたら赤身の肉で、美味しそうで。「食べられるのでは?」と食べてみたのが最初ですね。

塚原さん出版の栄養満点おいしいカラス料理のレシピ本はこちらから♪

 

最近、有害鳥獣であるシカやイノシシを食べる「ジビエ」がだいぶ浸透してきましたよね。でも、捕獲されたカラスは100%処分される。

カラスも捕まえるのにそれなりのコストがかかるんですよ。カラス用のトラップは大きな檻(おり)なんですが、カラスは頭が良いので餌を入れておくだけでは警戒して入らない。

囮(おとり)が要るんです。結局その囮をその檻で数日間飼う必要がある。その間の餌や水、掃除も必要ですし、それらの管理をするための人件費も必要です。大雑把な計算で、一羽のカラスを捕獲するのにおよそ 5,000 円 のコストがかかっているという話もあります。

だからただ処分されるだけのカラスを食資源として利用できたら、生命を無駄にすることもなく、有益では、と 考えました。

カラス肉は、鉄分を非常に多く含んでいます。鶏の肉と違って赤いのは、非常に鉄分が多いからです。タウリンもたっぷり含んでいて、これは畜産動物にはない特徴。

鉄分を多く含んでいることから、急激に火を通すと生臭さが出てしまいますし固くなってしまうんですが、 燻製のように低温でじっくり調理すればなかなかイケる。ジャーキーは実際好評でした。

食資源として利用できる可能性は十分にある。

だからこそ、カラス肉を食利用するための研究を進めていきたいのですが、そのために越えないといけないハードルがいくつかありました。

一つは安全性。

生ゴミを食べるので有害物質の蓄積や寄生虫、細菌の心配があると思い調べてみましたが、問題ありませんでした。普通の鶏肉と同じく、火を通せば大丈夫。ということでこれはクリア。

二つ目に、需要。

共同研究先である日本獣医生命科学大学でのイベントで、3~50代の主婦の方150名にアンケートを採りました。すると、15%もの方が「食べてみたい」と……!

15%というと一見少なそうに感じますが、私の中ではこれは予想外に多いと感じました。 「食べてみたい」と答えた理由の中で一番多かった理由が「珍しいから」とのことでしたので、珍しさをウリにすれば行けるのではないかと思っています。ということでこれもクリア。

三つ目に、栄養と味。

高タンパク質で低脂肪、低コレステロールという特徴の他、先ほどお話した通り鉄分とタウリンが豊富で、栄養は申し分ないです。あとは適した調理法をもってレシピの開発 が必要ですね。 だからこれもクリアできそう。

 

さて、ここまで3つのハードルをクリアしましたが、一番の問題は「イメージ」、これをクリアする必要があります。

一般的に見て、カラス肉を食べるのは気持ち悪いというイメージがある。鶏や鴨と違って食肉という認識がない。それらのイメージや認識を変えなければいけません。

この件については一度セミナーにて、事前にカラス料理へのイメージについてアンケートを採り、実際に食べられているカラス料理を紹介し、その後のイメージの変化を見る、といったことを行いました。

あ、カラス料理って実は全く新しいわけではないんですよ。長野県上田市や秋田県の一部では、つみれにして棒に巻いて焼く「ろうそく焼き(別名:カラス田楽)」という料理があります。

韓国では滋養強壮の漢方に用いられますし、フランスでは100年以上前の古典フレンチとして食されています。 ちなみに、セミナーで参加者の様子を観察していたところ、カラスが古典フレンチとして食べられていた、という話に対して最もリアクションが大きく、参加者のカラスを食べることに対するイメージが最も変化した瞬間だったと感じています。

認識やイメージは変えられる。そう確信しました。

今、そのためにセミナーを催したり、メディアに出演してタレントの方に食べて頂いたり、レシピ本を出版したりといった「仕掛け」をしていますが、どこかの段階で認識が変わる、それはどの段階で変わるのか? 変わる過程で何がキーになるのか? そこに興味を持って研究を続けています。

また、カラスのようにハードルの高いものを一般的な食肉として市場に流通させることができれば、その「仕掛け」を、今はまだ10%くらいしか食利用されていないと聞くシカやイノシシに応用させることもできるはず。

そうしてまた社会に貢献することができるので、十分に意義のあることだと思っています。

 

ーー非常に「社会貢献」への意識が高くていらっしゃるように見受けられますが、その根底には何が影響しているのでしょうか?

そうですね……中学時代の先生の言葉が影響していると思います。

当時私は、テストの成績は良かったものの、リーダーや代表になることを恥ずかしく思って前に出ることができない子どもでした。

ある日、グループ発表の授業で一人リーダーを決めなければいけなかったのですが、その時もリーダーになるのを嫌がって手を挙げずにいました。

すると先生に言われたんです、「できる人間がその”できること”をやらなくちゃいけない。能力のある人間はその能力を活かす、果たす義務がある」、と。

 

……ものすごい衝撃を受けました。

 

ーーなるほど……ずっと「先生になりたい」と思われていたお気持ちも解るような気がしました。そんな塚原さんの、特に尊敬する方はどなたでしょうか?

大学の師匠である杉田 昭栄(すぎた しょうえい)先生です! 今月(2018年3月)退任される宇都宮大学農学部の教授で、大学3年生だった私に「無茶ブリ」してきたあの方です(笑)。2018年4月より、我々の会社に顧問としてお迎えする予定でもあります。

先生は人格者で、学生のことを考えた分かりやすく素晴らしい授業に、業績もたくさん。企業と共同開発して収益を大学に還元し、学部長として大学の運営にも貢献されています。

なんでもできる方であり、「人のために」という気持ちの強い、私の目指す理想像。先生にご指導頂き研究する上での姿勢が変わりましたし、大学教育にしてもその背中を見て学びました。

今の私がいるのは、先生のおかげです。

 

ーーでは、今後の展望をお聞かせ下さい。

起業4ヶ月目でまだまだ軌道に乗っていないので、収益を上げることが直近の課題ですね。

また、昨年9月に行った山形県山形市役所での実験の実用化に取り組みたいです。

カラスの群れを居て欲しくない場所から任意の場所へと誘導することを目的とした実験で、まず、カラスがたくさん群がっている場所で天敵であるオオタカの鳴き声をスピーカーで流し、次にオオタカとカラスの争う声を流したところ、カラスたちはパニックを起こしました。

その後、パニックでぐるぐる旋回するカラスに向けて別のスピーカーからカラスがねぐらに入る時の声を流すと、カラスがいてもいい任意の場所に誘導することができました!

ただ、実用化となると、誘導だけではなくその場所へ定着させる方法を考えなければいけません。アイディアはいくつかあるのですが……。頑張ります。

ーーそれでは最後に、読者の方へメッセージをお願い致します!

そうですね……私は、自分勝手に生きてきた気がします。

起業するのもリスクだし、大学院に行くのもリスクでした。普通に就職する方がまだ簡単だった。

大学院に行って研究者になると言った時、母からは反対されました。それで大学を1年休学し自分で学費を稼いで、相応の覚悟を見せたんですね。確かにそれだけでは賄(まかな)えず両親に助けてはもらいましたが……。

そういうふうに、やりたいことをやるために無茶してきました。

そういった、行動が大事だと思います。

ハードルは大なり小なりみんなあると思いますが、とにかく行動するのが大事かな。

 

結婚し守るべき家族ができた今、失敗は許されません。そのため、「学生の時にでも起業して経験を積んでいれば良かった」とよく思います。ただ、結局今がベストだったと思っています。これまでの経験がなければ今の自分はありませんでしたから。

あの時院に行かず就職していたら、多分私は後悔していたでしょう。うん、やっぱり自分の選んできた道が正解だったと思っています。これから後悔するのかもしれないけど(笑)。

でも、やらずに後悔するよりやって後悔した方がいい。

とにかく行動が大事、ですね!

 

 


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