山岳を駆け、世界を駆け、村を駆ける――トレイルランナー・大瀬 和文

Photo by FUJIMAKI SHO

<プロフィール>

舗装されていない山野を走る過酷な陸上競技・中長距離走の一種、トレイルランニング(別名:山岳ラン、以下トレイルラン)で、国内・海外問わず活躍中の日本を代表するランナー。

同時に、長野県王滝村にて「地域おこし協力隊」として活動するかたわら看護師としても日々務めを果たす、兵庫県出身の36歳男性(インタビュー時)。

<以下は2017年の主なトレイルランの実績>

TranceLantau50(香港)50km 1位

PenyagolosaTrail CSP(スペイン)115km 8位

Ultra Trail Australia(オーストラリア)100km 9位

Diagonale Des Fous(南アフリカ)170km 21位

OxfarmTrailWaker(香港)100km 3位

 

――大瀬さんがトレイルランを始められたのは、30歳過ぎてからだそうですが……

そうなんです、私は元々トレイルランナーだったわけではありません。中学時代から陸上部で走り始め、大学では箱根駅伝を目指して走っていました。

看護師として働き始めてからも趣味として走り続けていたのですが、30歳の時、職場の先輩からトレイルランに誘われまして。出てみたら楽しかった。

そんな折、雑誌「Tarzan」でトレイルランナーの募集企画を見つけ応募して、32歳でランナーとなり……そうして国内のみならず、世界を駆け巡る現在に至ります。

 

 ――未舗装の山を数十キロ、百数十キロを重装備で走る……そんなトレイルランの魅力とは何でしょうか?

魅力は沢山ありますよ! まず、この競技は単純に速さだけでなく、アップダウン、ペース配分など、戦略が活きるものなので、歩くことだってあります。なので、ライバル同士話しながら進むこともあるんですよ!

そしてレースは非常に内容が濃く、レース中に体調を崩すと、通常30分の道に2時間もかかったり、街中ではないのでたとえ動けなくなっても自己責任の世界、このまま進んでも戻って来れるのか難しい判断に迫られたりします。

 

中でも気持ちが高ぶる瞬間は、野生に帰る、という気分を感じた時ですね。

走るのは舗装されていない山岳ですし、標高2,000メートルや3,000メートルを超える、雲よりも高い所を走る時もあります。とても雄大な景色、素晴らしい星空……圧倒され、啞然と言葉を失います。

また、レース中に水分や食糧を補給する「エイドステーション」で、用意してくださる補給食としてその土地のものを食べることも楽しみの一つですね。

 

――この景色は確かに圧巻です……! きつい時はどうやって乗り越えていらっしゃるのでしょうか?

100マイル(約160㎞)走ることもありますので、レース中は当然波もあります。体調不良で倒れ込むとネガティブな気持ちにもなりますよ。

でも、サポートしてくれる方々や支援してくれるスポンサー等、周りの人のことを考えると、やはりまだ己の限界に挑もう、と。「一人で走っているけど一人じゃない」と思うことで、また前に走り出すことができます。

Photo by FUJIMAKI SHO

 

 ――いろんな方々の期待を背負っていらっしゃるんですね。では、長く続けるコツは何でしょうか?

目標の立て方は大事ですね。目の前に大きな目標をドンと置くのではなく、一つ大きな目標を作ったら、達成するための短期目標を少しずつ立て、1つクリアしたら次の目標に進むようにすると良いですよ。

また、義務的にやらないことですね。「やらなきゃ」はダメです。趣味は趣味として楽しみましょう。

 

――トレイルランを始める前と後で、変わったことはありますか?

そうですね、人生観が変わりました。

看護の仕事も楽しく、その専門性を高めたいと思ながら日々取り組んでいたのですが、トレイルランを始めてから、それまでの自分では出会うこともなかったであろう人々に出会いました。

いろんな刺激を受け、たくさんの可能性を与えられました。いいものを得たなあ、と思っています。

 

正直、海外に出て活動する自分に自分自身で驚きもしています。海外に友達も出来たし……看護師としての自分だけでは、これは成せなかったでしょうね。

国内だけで終えるのか、それとも世界を知っていくのか?

これは非常に大きいと思っています。

 

でもね、村では看護師の仕事も続けているんですよ。

村は正直なところ人が少なく……看護師は国家資格を持つ人でないと出来ない仕事ですから、それを持つならその務めを果たすのは当然と、誇りを持って日々務めています。

 

――八面六臂のご活躍ですね! ところで、その長野県王滝村は元々ご出身だったのでしょうか?

いえ、私自身は兵庫県の生まれで、それまで長野県王滝村には、村で行われているトレイルランのレースに2度出場したことがあるだけでした。

長野県王滝村……ご存知でしょうか? 2014年に噴火災害が起こり、多くの方が犠牲になられた、あの御嶽山のふもとにある村です。

噴火の翌年、上位選手だけ集めた大会が村で開かれ、招待されて行ってきました。

その翌年も参加したのですが、その際、村としてアウトドア全般で村おこしをする話を聞きました。噴火後観光業が衰退して困っている、村の活性化のために2017年明けからやっていく、その協力者を探していると。

レースで2回行った縁のある自然いっぱいの村が、噴火災害で困っている。

自分のやっているトレイルランが地域おこしに活かせる、村や人々の助けになれる、その可能性に気づいた時、私は王滝村の地域おこし協力隊としての道を決意していました。

村の人々はあったかくて、自分もそこに混ざりたいと思った。

それもまた、理由の一つです。

 

 ――素敵な、とても勇気ある選択ですね。最近新たに取り組んでいらっしゃることはありますか?

スキーです! 良質な雪の豊富にある村ですからね。

あ、スキーといってもアルペンスキーじゃないですよ。スキーマウンテリングといって、滑り止めの貼ってあるスキー板で山の斜面を登り滑って降りてくる、まさに登山とアルペンスキーを足したようなスポーツです。

トレイルランだけでなくマウンテンバイクやキャンプなども含め、アウトドア全般楽しめる環境の村ですので、それもぜひ地域おこしに使えたらなあ、と。ならまずは自分がやってみないことにはと思い、始めました。

 

――夢は広がりますね! では、今後の目標をお聞かせください。

1つはやはりトレイルランナーとして、フランスでの大きな大会――UTMB(=ウルトラトレイル・デュ・モンブラン。ヨーロッパアルプス最高峰・モンブランを取り巻く、フランス・イタリア・スイス3カ国に渡る山岳地帯を走る)で結果を残すことです。

↑フランス・シャモニーの街並みを眼下に

 

100マイル(UTMBのうち約170㎞を制限時間46時間30分で走るレース)だと過去に日本人が3位になったことはあるのですが、

TDS(UTMBのうち約120㎞を制限時間33時間で走るレース)では、実はアジア人が表彰台に乗ったことはないんです。

日本人や中国人も最近出場してはいるのですが、地の利もあってフランス人はやはり強い。私は過去にこのTDSをリタイアしているので、今度は絶対、リベンジしたいです。

 

そして過去にUTMB100マイルで3位になった日本人――鏑木 毅(かぶらぎ つよし)さんは、私の尊敬する方です。

経験がものを言うトレイルランは年齢が関係なく、また、メンタルの強靭さも結果を大きく左右します。事実、鏑木さんは49歳の今でも現役でご活躍中です。

私はそんな鏑木さんの過去を抜きたい。彼の過去の戦績を塗り替えたい。

尊敬もし、実は、ライバル視もしているんですよ。

 

また、2018年は地域おこし協力隊の始動年でもあります。上手くいくよう頑張りたいです。一緒に地域おこしできる仲間も欲しいですね。

地域おこしの仕事は、与えられたものをこなすのではなく、自分で意見を出していかないといけません。何がしたいのか、どうして行きたいのかを明確にし、自分の考えを持っていて周りに流されない方と村を盛り上げて行けたら、と思っています。

 

 ――それでは最後に、読者の方へメッセージをお願い致します!

一度きりの人生ですから、後悔しないようにいきましょう。

生きていくためには、生活することを思ってもいいのかな、と私は思います。

人生を振り返った時に絶対後悔しない人生であるならね。

 

私の場合は、歴史に名前を残したかった。生きた証を残したかった。

根本的な考えはそこにあり、それを元にこれまで選択し続けてきました。

 

長野県王滝村にもぜひ遊びに来てくださいね。

「何もない贅沢」を楽しめますよ!

 

 


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